新春スペシャル対談「これが私たちの生きる道」
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1青木さやか×瀧波ユカリ 母親の呪縛、どう抜け出す?
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2青木×瀧波 苦手だった母と後悔しない関係を築くには?
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3山口真由×馬渕磨理子 私たちの課題は「母からの卒業」←今回はココ
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4山口真由×馬渕磨理子 男性の物差しに自分押し込めない
男女格差の解消や多様性が重視されている今、フェミニズムは現代を生きる私たちに必須の教養となりつつあります。そこで今回は、元財務官僚で法学博士の山口真由さんと、日本金融経済研究所の代表理事で経済アナリストの馬渕磨理子さんの対談をお届けします。世界経済フォーラム(WEF)が2022年に発表したジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中116位。この結果からも分かるように、今なお男性中心の考え方や体制が残る日本社会の中で、もがきながらも独自のキャリアを築いてきた2人が、フェミニズムをテーマに女性の生き方や結婚、母娘問題などを語り合いました。
フェミニズムには興味がなかった
編集部(以下、略) 山口さんが1月に出版した書籍『世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史』(幻冬舎)では、世界中の女性たちが性差による不当な扱いを解消するために歩んできた歴史を分かりやすく解説しています。馬渕さんもこの書籍を読まれたそうですが、昔からフェミニズムについて興味があったのでしょうか?
馬渕磨理子(以下、馬渕) いえ、正直なところあまり興味はありませんでした。今思えば食わず嫌いなだけだったのですが、フェミニズムには女性の権利を過度に主張する怖いイメージがあって。
私がいる金融業界は男性が圧倒的に多い、いわゆる男性社会なのですが、優秀な男性が大勢いる中で私がさまざまなメディアや講演会に呼んでもらえているのは、女性だからだと感じる部分もあって。性別に関係なく、実力で評価される社会になってほしいという思いもありました。
山口真由(以下、山口) 実は、馬渕さんの「性別に関係なく実力で評価される社会になってほしい」という考え方は、1960年代ころから米国でムーブメントを巻き起こしたリベラル・フェミニズムの影響を受けているのではないかと思います。
リベラル・フェミニズムは、簡単にいうと男女の平等は法的手段や社会の改革を通して実現可能で、男性との闘争を主張しないフェミニズムのこと。個人の努力でキャリアを確立している女性に多い考え方だと思います。
馬渕 そうなんですよね。山口さんの書籍を読んだことで、知らず知らずのうちに自分もフェミニズムの影響を受けていたのだと分かって、驚きました。また、書籍の中で「日本は『母性』に強いこだわりがある」と指摘していた点も印象に残っています。
価値観の相違で、母とは5年間連絡を絶っている
山口 日本は欧米のフェミニズムの影響を受けつつも、「母性」を素晴らしいものとして扱う特徴があるので、独自の発展を遂げた部分があるようです。
例えば、日本の女性が仕事と家庭を両立させる場合、仕事では欧米のように個人の能力や努力で成果を上げていくことが必要ですが、家庭では母性に根ざした完璧な母や妻を期待される傾向があります。これは私たちの世代から急に始まったわけではなく、母親世代から脈々と続いているものだと思います。
しかも、母親世代には仕事も子育ても完璧にこなして成果を出してきた人たちもいて、そんな母親を見て育つと、自分も母親のように仕事も家庭も完璧にこなすスーパーウーマンになるか、そこから降りて独自の道を行くかの二択を迫られることになる。いずれにしても、バランスの良いロールモデルが提示されてこなかったなと思います。
馬渕 確かに、母親世代は複数の役割をそれぞれ高水準でこなしているケースがありますよね。でも、私自身は仕事も家庭も両方完璧にこなすことはできないので、スーパーウーマンの道からは離脱して、今のところ仕事だけを取る形になっていますね。
山口 そうなると、母親とは決定的に価値観が違ってきませんか? 私の母は医師なのですが、馬渕さんのお母様は教師ですよね。2人とも男性社会の中でプロフェッショナルとして働き、仕事も子育ても両立してきた女性なので、私たちの母親は考え方が似ているような気がしています。一般論として、母親世代には結婚して子どもをもうけることが幸せだという価値観があるように思うのですが、馬渕さんの場合はどうですか?
馬渕 私は母から、「女性は自立すべきだ。一生貫き通す仕事を持ちなさい」と言われて育ちました。一方で、適齢期になると「お見合いをしなさい」「子どもは必ず産まなければいけない」と言われるようになったので、母と会うことがつらくなってしまって。この5年ほどは母との関係を断ち、連絡が来てもLINEなどは未読のままにしています。
山口 会って話すと、自分の価値観が揺らいでしまうからですか?